その男は、持っていた金属バサミを振って、私にどくよう命じました。私が一歩しりぞくと、足元にタバコの吸い殻が落ちていました。マスクをした中年男は、それをチリ取りに入れると、立ち去ろうとしました。

私はその背中に言葉を投げました。
「人に何か頼むと時には、それなりの仕方がありませんか」。
それに反応した男は、しばらく私を睨みつけてから行ってしまいました。メガネごしの目が怒っていました。

朝、待ち合わせのために、駅前の角に立っていた時のことです。

私は怒りやすい人間です。すぐにイライラするタチです。ちょっと前でしたら、その無礼な男に「何だ、お前は」と怒鳴ってやったでしょう。

しかしそんな自分がホトホト嫌になっている人間でもあります。
イライラしたり怒鳴ったりすると、結局、自分の心に悪いです。疲れます。自分で自分を傷つけているようなものです。

そのあげく他人に嫌われ、友人知人が去っていく。
そうした卑しい根性を何とかしようと、何冊かの改善本を読みました。

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『感情的にならない話し方』という本から学んだこと。

その中の一冊に、和田秀樹という精神科の医者が書いた『感情的にならない話し方』という本があり、その朝、家を出る前にパラパラと読んでいたのです。

そして「感情的になってカーッときても、すぐに表情や態度に出さない」という言葉を心に刻んでおいたのです。
それで今回は、そうすることができました。

その男は、感情的になりやすい、私という人間の写し鏡だ。
私は彼について考えました。もうすんだことなので考えなくてもいいし、考えないほうが良いのですが、考えてしまうのが私という人間です。(ダメダメ)。

私はこんなふうに考えました。

あの男はたぶんボランティアで吸い殻拾いをやっているのだろう。
「無報酬で他人のためにやっているのだから、自分が正しいし、偉いのだ」。
そんなふうに思いながら、やっているのだろう。
だから、あのような態度をとったのだと…。
と考え続けてハッと気づいたのです。

彼からは、私が吸い殻を捨てた張本人に見えたのだと。でないと、あんな攻撃的な態度はとれません。

そしてまたまた気がつきました。
あの男は、その朝読んだ『感情的にならない話し方』の一節「感情的になってカーッときても、すぐに表情や態度に出さない」ということの真逆のことをやったのだと。

長い金属のハサミで人を払ってどける。怒りマナコで睨みつける。
そうした態度と、目つきから察して、あの男の脳みそは今にも爆発しそうになるまで怒り狂っていたことは間違いありません。

そもそも私はタバコを吸いません。だから吸い殻を捨てることはできないのです。
あの男は口に出して「これはあなたが捨てたのか」と穏やかに言えばそれですんだのです。
そうすれば私はそれを否定してから一歩退き、彼は怒りで膨れ上がることなく、私も不愉快にならずにすんだのです。

思い込みの激しい人間が、正義の御旗(みはた)を振ると、ああいう態度をとりがちなことを私は知っています。
私も同じようなタイプの人間だから。

不賢をみては内に自ら省みる。
みなさんは孔子の『論語』にこんな言葉があることを知っていますか。

賢をみては等しからんと思い (けんをみては、ひとしからん、とおもい)
不賢をみては内に自ら省みる (ふけんをみては、うちに、みずから、かえりみる)

こんな意味です。
「素晴らしい人に出会えたら、自分もそういう人になろうと努力し、
愚か者をみたら、自分もそんな振る舞いをしていないかと振り返り、
もし、していたら改める」。

後半は、人の振り見て我が振り直せ、と同じようなことですね。

あの男は、誰かに腹をたてた時の私自身を、鏡のように映してくれました。
「自分が正しいのだから、感情的になってもいいし、攻撃的な物言いや態度で相手に接してもかまわないのだ」と思い込んでいる自分を、です。

「感情的になってカーッときても、すぐに表情や態度に出さない」ことは大切です。
まずは、冷静になって自分の心を落ちつかせよう。
それから先は、その時、その時さ。
ケセラセラ~。

追記
私は、今回取り上げた、たぶんボランティアであろう男が非常に珍しい人であることを知っています。

週末の朝、池袋や渋谷で、誰かが捨てた吸い殻を拾っているボランティアを何度も見たことがあるからです。
彼らは丁寧に声をかけてから拾っていました。タバコを吸ってはいけない場所で吸い、捨てていた人たちにも。

私が関わった男も最初はそんなふうにしていたのかもしれません。そうしていたら不愉快な目にあわされて、あんな態度をとるようになったのかもしれません。

池袋や渋谷のボランティアの皆さん。
全国のボランティアの皆さん。

*参考資料 感情的にならない本
*参考資料 「感情の整理」が上手い人下手な人
*参考資料 文庫 声に出して読みたい論語


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